【健康保険法】早産すると給付どうなる
2018/01/10
■ 産前期間中生じた手当金

【問】

出産手当金のことで、ちょっと確認したいことがあります。

出産が遅れると、その分、給付期間が延びるといいます。

その逆で、出産が早まった場合には、どうなるのでしょうか。

● 「現実の出産日」から逆算・・・報酬支払いある日は除外

【答】

出産手当金は、出産のため会社を休み、給料の支払を受けなかった場合に支給されます。

支給期間は、「出産の日(出産が予定日後であるときは、予定日)以前42日(多胎妊娠のときは98日)から出産の日後56日まで」です(健保法102条)。

産前給付分の基準となるのは、原則として「現実の出産日」です。

ただし、「出産が予定日後であるときは、予定日」が基準日となります。

ですから、出産日が遅くなったとしても、当初の予定日から遡って42日(98日)まで、出産手当金の請求ができます。

一方、産後給付分の基準となるのは、「現実の出産日」で例外はありません。

出産が予定日より遅れたときは、その現実の出産日から56日分の請求が可能です。

当初の予定日から現実の出産日までの間も、給付の対象となります。

出産が遅れるほど給付日数が増えるというのは、この部分を指します。

次に、ご質問にある出産が早まったケースについて検討しましょう。

この場合、産前給付分も産後給付分も「現実の出産日」を基準とします。

したがって、最大では、産前42日(98日)、産後56日の請求ができる理屈となります。

ただし、出産手当金は「会社を休み、給料の支払いを受けなかった」ことが要件となっています。

労基法では、「6週間(多胎妊娠のときは14週間)以内に出産する予定の女性」が産前休業を請求できると規定しています(65条)。

産前休業の請求は、「予定日」を基準とします。

産後休業は「産後8週間」を対象として、請求を要しません(強制付与)。

ですから、出産日が予定より遅くなったときは、出産予定より42日前から休み始め、予定日が過ぎても産前休業が続き、産後(現実の出産日基準)8週間まで産後休業が続きます。

ところが、出産日が予定より早まったときは、休業開始から出産日までの期間が42日(98日)より短くなります。

出産時期が前倒しになったからといって、後から産前休業の開始時期を変更することはできないからです(既に出勤した分は取り消せない)。

産後8週間は変わりません。

出産予定日より前に出産したときは、法文上は42日(98日)分の出産手当金の請求が可能ですが、産前休業(給与を受けない期間)が短くなれば、その分、出産手当金を請求できる日数も少なくなります。

【労働基準法】賞与年4回の影響は?
2018/01/09
■ 社会保険だと報酬扱い・・・労基法では「賃金」か

【問】

労基法でいう賞与の定義について疑問があります。

社会保険の世界では、「賞与を年4回払うと報酬になってしまう」といいます。

労基法でも、同様に「年4回」等の解釈が適用されるのでしょうか。

仮に「賞与でない」と判定された場合、実務的にどのような影響があるのでしょうか。

● 割増は1ケ月超え除外に

【答】

健保法では賞与とは「いかなる名称であるかを問わず、労働の対償として受けるもののうち3ヵ月を超える期間ごとに受けるものをいう」と定義されています(健保法3条6項)。

反対解釈として、年4回以上支払うと報酬に当たると判断されます。

会社が賞与と呼ぶのは勝手ですが、社会保険料の計算上は「標準報酬月額の算定ベース」として取り扱われます。

一方、労基法では「定期または臨時に、労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、支給額が予め確定されていないもの」を指すと解されています。

ただし、定期に支給され、支給額が確定しているものは、対象から除かれます(昭22.09.13発基17号)。

この定義では、賞与が支払われるスパンに関しては触れていません。

賞与であるか否かが問題となるのは、次の場合です。

@ 平均賃金の計算

A 毎月払いの原則

B 割増賃金の除外賃金

まず平均賃金を計算する際には、「臨時に支払われた賃金、3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金等」を除外します。(労基法12条4項)。

「3ヵ月を超える賃金」の代表例として、年2期の賞与等が挙げられます。

会社が賞与という名称で支払っていても、3月ごとの支払い等であれば除外の対象となりません。

次に、毎月払いの規定は、「臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもの」には適用されません。

準ずるものの例として、「1ケ月を超える期間に対して支給する精勤手当・勤続手当・能率手当」等が挙げられています(労基則8条)。

ですから、1ケ月を超える期間を対象として支払っていれば、3月以内の「賞与(社内名称)」でも毎月払いの原則から外れます。

割増賃金の算定基礎を計算する際、「1ケ月超の期間ごとに支払われる賃金」は除外されます(労基則21条)。

「賞与」も「1ケ月を超える賃金」に含まれるという解釈です。

【労働基準法】1ヶ月変形で割増賃金単価は?
2017/12/29
■ 法定労働時間が基礎?・・・1ヵ月平均をどう算出

【問】

当社では、1ヵ月単位変形労働時間制の採用を検討しています。

割増賃金の単価ですが、1年単位は単純です。

1年の法定労働時間の総枠が2,085時間(端数切捨て)なので、月給を2,085時間の12分の1で割ると理解しています。

1ヵ月単位変形制も同様でしょうか。

あるいは、特別な計算方法があるのでしょうか。

● 所定時間積算して「等分」

【答】

割増賃金の算定基礎の計算方法は、労基則19条で規定されています。

月極めの賃金については、「その金額を月の所定労働時間(1年平均)で除した額」を用います。

法定労働時間ではなく、それぞれの会社で定めた「所定労働時間」を算定ベースとして用います。

年間の法定労働時間の総枠は、365日×40時間÷7日日=2,085.71時間です。

しかし、たとえば、1日の所定労働時間を8時間で固定している会社は、8時間×260日=2,080時間が限度となります。

2,080時間を超え、2,085時間(以下、端数略)までは「法内残業」となるので、25%の割増を付けるか否かは会社の定め次第です。

しかし、2,085時間超について割増を支払う規定であっても、割増賃金の算定基礎は「月給÷(2,080時間÷12)」で計算します。

1ヵ月単位変形制でも考え方は同じですが、1ヵ月単位の場合、月をまたいだ労働時間の貸し借りができません。

こちらも1日「8時間固定」とすると、各月の総枠は下記のとおりです。

30日の月・・・8時間×21日=168時間(法定は最大171時間)

31日の月・・・8時間×22日=176時間(同177時間)

28日の月・・・8時間×20日=160時間

うるう年以外であれば2,064時間がマックスで、割増賃金の単価は「月給÷(2,064時間÷12)」で算定します。

もちろん、1日の所定労働時間を分単位で調整すれば、各月の所定・法定労働時間の差を限りなく小さくできます。

しかし、現実には、12の月すべてで両者の差(前出の例で、「法内残業」に当たる部分)を最小化している会社は少数派でしょう。

各月の所定労働時間を積算し、正確に割増単価を計算しないと、法定額を下回るおそれがあるので注意が必要です。

【健康保険法】兼業等の保険料いくら
2017/12/29
■ 一方が「4分の3」未満

【問】

当社でパートを採用する際、他社でも兼業・副業している例が増えてきました。

当社(500人以下)で健康保険等の被保険者資格を取得することがなければ、報酬が保険料等に反映されるようなこともないのでしょうか。

● 2事業勤務に該当せず

【答】

健康保険等の被保険者資格取得要件を満たすか否かについては、各事業所単位で判断を行います。

2事業所を合算して4分の3要件等を満たしても、加入の必要はありません。

厚労省Q&A集では、「同時に2ヵ所以上の事業所で被保険者資格の取得要件を満たした場合」、いずれか1つの事業所を選択し、「被保険者所属選択・2以上事業所勤務届」(健保則1条、厚年則1条)を提出する必要があるとしています。

常時501人以上の1または2以上の適用事業所等は、被保険者の範囲が週の所定労働時間20時間以上に拡大されたことにより(法附則46条)、2社で加入するケースは可能性としては広がったということになりますが、
一方の事業所で、被保険者資格の取得要件を満たさなければ、選択届の必要等はなく報酬も合算されません。

【育児介護法】休業延長以外に変更は
2017/12/29
■ 平成29年10月施行の改正法

【問】

平成29年10月から育児休業を取得できる期間が延長されましたが、他にも法律の改正があったと聞きます。

どのような内容なのでしょうか。

● 努力義務の規定を新設

【答】

今般の育介法の改正は、子が最長2歳になるまで育児休業の延長ができる措置以外に2つあり、いずれも「努力義務」です。

1つは「育児目的休暇」の新設で、たとえば幼稚園・保育園の行事など、広く「育児」を目的として休暇が利用できる制度です(育介法24条1項)。

既に子が病気や怪我をした時に取得できる「子の看護休暇」はありますが、特に父親である男性労働者の休業・休暇の取得状況が伸びておらず、男性の育児参加を促す目的もあります。

もう1つは、育児や介護の必要が生じた労働者に対し、休業や休暇の制度を「個別に」通知するというものです(同法21条I項)。

労働者を対象とした調査で、職場の雰囲気から休業を取得しづらく断念したという回答があったことから、事業主から積極的に制度の周知を図り、労働者に取得を勧奨するよう求めています。

これらの「努力義務」には、事業規模等の要件はありません。

前者の休暇制度は人手の少ない事業場では十分検討して導入する必要がありそうですが、後者の周知徹底はむしろ小規模事業場のほうが定着しやすいとも思われます。

【労働基準法】入社前から6カ月起算か?
2017/12/15
■ 採用通知後に2日間出社・・・年休付与日どう扱う

【問】

中途採用者が、半年も経たないうちに退職願を出してきました。

入社の約1ヵ月前に採用通知を交付し、2日間の事前研修を実施しています。

年休付与の条件となる「6ヵ月継続勤務の起算日」はいつになるのでしょうか。

本人は「採用通知から6ヵ月経過しているので、10日の年休を消化できる」という理解のようです。

● 事前研修の性格で通算も

【答】

常識的には「入社から6ケ月」ですが、「10日分の年休賃金」が絡んでくるので、本人も簡単には引き下がらないかもしれません。

会社としては、理論武装しておく必要があります。

年休権発生の要件は、第1に「一定期間(最初は6ヵ月)の継続勤務」、第2に「出勤率(8割)の充足」です。

継続勤務とは在籍期間を意味し、休業期間も算入されます。

「年休発生の要件として出勤率が規定されていることを考慮すれば、継続勤務は出勤を意味するものではない」と説明されています(労基法コンメンタール)。

そこで、「労働契約が成立した日から入社日前日までの期間も、休職期間に準じるのではないか」という主張が生まれてきます。

しかし、法律の文言上、継続勤務の起算点は「その雇入れの日」とされています。

雇入れの日とは「実際の就業開始日であり、労働契約成立日(例えば内定日)ではない」

という見解が示されています(荒木尚志「労働法」)。

こちらも、「年休発生要件として雇入れ日と出勤率が組み合わされて用いられている」ことが、解釈の理由として挙げられています。

それでは、ご質問のケースで「就労の開始日」はいつになるのでしょうか。

事前研修の性格によって、扱いが異なってきます。

企業内の身分の切換えは実質的な労働関係の継続とみなされるため、「定年退職者を引き続き使用している場合や臨時工を本採用する場合等は勤務年数を通算しなけれぱならない」とされています(昭63.03.14基発150号)。

事前研修について出席の強制があり、賃金も支払われていたとします。

本採用後とは異なる労働条件で有期労働契約を結ぶ形となりますが、事前研修の開始日から6ヵ月をカウントすることになります。

【雇用保険法】在宅勤務で資格喪失?
2017/12/15
■ 雇用保険の被保険者

【問】

在宅勤務の制度導入を検討しています。

雇用保険は引き続き被保険者と取り扱うのでしょうか。

個人事業主や内職とはどういった点で異なるのでしょうか。

● 「5要件」を満たす必要

【答】

いわゆる在宅勤務者は、以下の5つの要件をすべて満たしたとき、被保険者になると解されています(雇用保険業務取扱要領)。

@ 指揮監督系統が明確なこと

A 拘束時間等が明確なこと

B 各日の始業・終業時刻等の勤務時間管理が可能なこと

C 報酬が、勤務した期間または時間を基礎としていること

D 請負・委任的でないこと

在宅勤務ガイドライン(平20.07.28基発0728001号)では、在宅勤務や「モバイルワーク」などのテレワークには、雇用型と非雇用型の2類型があるとしていますが、自宅で仕事をすることだけをもって、非雇用型というわけではありません。

Dは、たとえば、事業主等との通信費用等について本人の金銭的負担がないことまたは事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていることを条件にしています。

【厚生年金】戦時加算適用されるか
2017/12/15
■ 船員保険の加入者

【問】

90歳を過ぎた元船員の成年後見人を受任しました。

船員の年金は「戦時加算」があったと思いますが、どのような運用がされているのでしょうか。

● 就業していた海域で決まる

【答】

船員の社会保障制度である船員保険は、船員の労働保険および社会保険の給付を総合的にカバーしていましたが、現在、厚生年金・雇用保険・労災保険の部門は統合され、医療部門と船員保険独自の給付が残っています。

「戦時加算」は厚年法上の措置で、主に太平洋戦争期間中に炭鉱等の坑内作業者や船員だった人を対象に適用されます。

当時、軍艦のみならず多くの商船や漁船が攻撃を受け、6万人を超える船員が犠牲になったといわれており、そうした過酷な業務に従事していた船員の年金に、若干の優遇措置が採られています。

戦時加算の対象になるのは、一定の海域を航行していた船員保険の加入者です。

昭和16年12月8日〜昭和18年12月31日の間に太平洋およびインド洋を航行していた船員は、この期間中に被保険者だった月数に3分の1の期間を乗じた月数を加算して、老齢厚生年金の額を算出します。

更に昭和19年1月1日〜昭和21年3月31の期間は、前記に該当する船員は被保険者だった月数の2倍、日本海と渤海を航行していた船員は1倍が加算されます。

【職業安定法】固定残業代いつ明示か
2017/12/08
■ 採用時の通知事項増える?・・・必要な記載内容も知りたい

【問】

固定残業代制を採る会社では、採用時に「関連情報を明示する」義務ができると聞きました。

割増賃金に関するトラブルが増えている昨今、会社としても前向きに対処する方針です。具体的には、労働条件通知書の記載事項が増えるのでしょうか。

どの程度の内容を明示する必要がありますか。

● 求人条件として明らかに

【答】

従業員を募集・採用する際、労働条件に関する情報は2段階に分けて示されます

第1は不特定多数を対象とする求人情報の発信(職安法5条の3)、第2は特定の採用者を対象とする労働条件の明示です(労基法15条)。

今回の改正は職安法に絡むもので、労基法の労働条件通知は直接的に関係してきません。

職安法5条の3では、ハローワーク・職業紹介事業者(同条―項)、求人者(同条2項)に対して、求人情報の明示義務を課しています。

現在、法定事項として「従事すべき業務」・「労働契約の期間」・「就業の場所」・「始・終業の時刻、残業の有無、休憩・休日」・「賃金」・「社会保険の適用」が列挙されています(4条の2)。

平成30年1月1日からは、「試用期間に関する事項」・「雇用者の氏名・名称」・「派遣労働者として雇用する場合はその旨」が追加されます。

試用期間中とその後の労働条件が異なるときは、それぞれの労働条件を示します。

「募集内容の的確な表示」に関しては指針(平11.11.17労働省告示141号)が定められています。

この指針も、平成30年1月1日から対象事業者の範囲を拡大したうえで、題名と内容の一部が変更されます(平29.06.30厚労省告示232号)。

募集内容については、次のような事項も明示するよう求めています。

@ 専門業務型・企画業務型裁量労働制により「みなし労働時間制」を採る場合はその旨

A 割増賃金の定額払制を採る場合は、固定残業代の額(計算ベースとなる労働時間数・金額)、基本給額、固定残業時間を超える場合の割増賃金の追加の支払い等

なお、今回の法整備以前から、若者雇用促進法の指針(平27.09.30厚労省告示406号)では、「青少年の募集・求人」を対象として固定残業代制の明示を規定していました。

今後は、同様の義務付けが一般募集にも広がる形になります。

【均等法】社外セクハラ対応は?
2017/12/08
■ 忘年会や二次会で被害

【問】

セクハラの対象となる「職場」ですが、社外はどこまで範囲が及ぶのでしょうか。

これから年末にかけて忘年会などを予定しています。

二次会など会社として把握しきれないこともあり心配です。

● 広く相談の対象に含む

【答】

セクハラ指針(平18.10.11厚労省告示615号)では、職場について、通常就業している場所以外の場所であっても、たとえば、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店等でも、業務を遂行する場所であれば該当するとしています。

宴会ですが、勤務時間外であっても「実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当するが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加が強制的か任意か等を考慮」します。

ただ、「勤務時間後の宴会等においてセクハラが生じた場合等も幅広く相談の対象とすることが必要」(平28.08.20雇児発0802第1号)としています。

事業主は、セクハラ相談窓口を設け、事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません(均等法11条)。

二次会だからと担当者が門前払いしたりせず、また、応対時、担当者の言動等による「二次セクハラの防止(前掲通達)にも留意が必要でしょう。

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